「あまりにも順調に勝ちすぎているボクサーは、実は弱い。」…井上尚弥VSジェイソン・モロニー戦、前日計量終了。

 「あまりにも順調に勝ちすぎているボクサーは、実は弱い。」…モハメド・アリ

 

 ボクシングにまつわる格言、ボクサーの残した名言は数多くありますが、自分は「The Greatest」のこの言葉が一番好きだ。良くも悪くも「ボクシング」という競技の本質を的確かつ冷酷に言い表している。モハメド・アリという人物のインテリジェンスの高さに改めて畏敬の念を覚えてしまうよね。

 

 今年のボクシングシーンにおけるビッグマッチは「世界的には」先々週に取り上げた「ロマチェンコVSロペス戦」だろうが、「日本及びオーストラリアにおいては」明日開催される「井上尚弥VSジェイソン・モロニー戦」であることは論を待たない。

 

 井上尚弥の実績について今更ここで取り上げるまでもないだろう。19戦19勝16KOの3階級制覇、現世界メジャー2団体+リング誌認定バンタム級王座、2019年WBSSバンタム級優勝、パウンド・フォー・パウンドの現役トップランカー…2010年代後半以降の日本ボクシング界を牽引し続けている「日本のエース」がついに「ボクシングの聖地」ラスベガスのリングに上がる、というのが明日の興行の趣旨なわけだ。

 

 ラスベガスといえばカジノ。もちろんボクシングの勝ち負けも賭けの対象。ブックメーカーがつけたオッズは

 

 井上の勝利:1.08倍 モロニーの勝利:7倍 引き分け:26倍

 

 という井上への圧倒的な支持。この評価が意味しているのは「勝ちという結果」だけではない内容面、例えば「早い段階でのKO」や「フルマークの判定」といった「圧倒的な勝利」が求められているということ。当然のことながら日本のスポーツメディアも勝利は自明のものとして喧伝している。

 

 でも、実際のところはどうなんだろうね?

 

 井上尚弥がどのようなボクサーなのかとか、あくまで僕自身がどう評価しているかをいちいち書いてたら文章がまた混乱してしまうので今日はしないけど、ここに至るまでの過程を客観的に見れば正直なところ「そんなに楽観視できる試合なのかね?」という思いしかありません。

 

 まず「試合間隔の長さ」。井上尚弥の前戦は昨年11月のWBSS決勝、対ノニト・ドネア戦。ほぼ1年ぶりの試合ということになります。一方モロニーは今年6月に明日と全く同じ舞台での試合を経験済み、いわゆる「ひと叩き」した状態なわけです。既知の通り井上はドネア戦で眼窩底骨折を負ったため故障の回復期間が必要な身であったことは確か。その観点からいけば試合間隔そのものはさしてネガティブな要素では無いかも知れませんが、ただ多少なりとも「実戦感覚」が鈍ることは否定できないのでは?

 

 次に「減量も含めた調整の難しさ」。井上自身は小学1年生からボクシングを始めて約20年、プロ選手になってから約8年。年齢はまだ27歳ですが、競技者生活の長さを考えれば決して「若い」立場ではありません。その身に「眼窩底骨折」という非常にデリケートな故障の回復に数か月を当てなければならなくなったわけです。今までと同じような減量が出来るとは限らず、その点においても4カ月前に試合をしているモロニーの方が順調に調整出来る立場であったと想像します。

 

 ほかにも「海外遠征の難しさ」とか「モロニーのスタイル」とかいろいろあるんですけど、個人的に結構気になってるのがこの試合「具志堅越え」が掛かっているという点。具志堅用高といえば言わずと知れた「世界戦13回連続防衛」という日本記録の持ち主ですが、それは「世界戦14連勝」もセットです。そして井上の現時点での世界戦連勝記録も14、タイ記録です。ということは明日のモロニー戦に勝利すれば晴れて単独記録樹立となるわけですが、この具志堅さんの記録に並ぶとかあと少しに迫るとか、そういうシチュエーションで負けてしまう選手が今まで非常に目立っていたので…これはもちろんただのジンクスに過ぎませんけど、勝負事にジンクスって重いんですよ。「中央競馬G1競走7勝」とか、なぜか色々あるんですよね~。アーモンドアイもどうなるのかね~?(無関係)

 

 とはいうものの、単純に試合結果だけを予想するなら「井上の判定勝ち」が1番可能性としては高いのかな?KO出来るなら早い段階でしょう。6ラウンドを過ぎると膠着状態が続いたり、古傷が開いたりして危ない場面が出てくるかもしれませんが、判定まで持ち込めればよっぽど内容が悪くない限り井上の負けは無いでしょう。そこらへんは「大人の事情」というやつも絡んでくることなので、1視聴者である自分にはとても計り知れない世界のお話ですけどね。

 

 はてさて、いったいどうなることやら?泣いても笑ってもゴングまであと十数時間。

 

 かしこ。