「ストレートは大胆に、変化球は低めに。」…続々・2020年ドラフト会議について。

 「プロ志望届」提出が先日10月12日に締め切られ、今年の本当の意味での「ドラフト候補」が確定した。

 

 この「プロ志望届」という制度が現行のシステムになったのが2007年。以来「波」はあるものの、高校生・大学生ともに100人前後、計200人近辺というのがこれまでの相場だった。

 

 ただ、今年は状況が状況、事情が事情である。

 

 正直なところを言えば、自分は「減る」方向に働くのではないかと予想していた。高校生大学生、共に「自己アピール」が出来る最大の舞台である全国規模の大会が軒並み中止、及び内容の大幅な変更を余儀なくされた。プロ球団側もスカウト活動の大幅な制限を余儀なくされた。選手側が「商品価値の証明」が出来ず球団側も「商品価値の見極め」が出来ない、ということは両者ともに慎重な判断を下すのでは?そう思っていた。

 

 しかし両連盟から発表された数字⇒高校生216人 大学生158人 計374人

 

 いずれの数字も過去最多を大幅に更新して来た。ここまで完璧に予想が外れるとむしろ清々しいくらいだが、当日は志望届の無い社会人野球や独立リーグの選手もリストに加わることを考えれば総計は恐らく500人近くになる。例年ドラフトで指名される人数は支配下枠7~80人・育成枠2~30人、だいたい100人前後というのが相場だ。志望者数と違ってこちらは大幅な変動は起こらないので、(あくまでも人数上においては)今年のドラフトは日本プロ野球史上最も狭き門ということになってしまうのだろう。

 

 ではなぜにこのような状況となったのか?答えらしきものを求めるとするならば、高校生の志望者数が例年の倍となったところに見出せそうな気がする。

 

 高校球児の「夢」や「目標」は「甲子園」であり「プロ野球選手」であるのが古今通じてのスタンダードなのだろうが、プロ入りするための現実的な手段として大学野球や社会人野球を経由するというのもまたスタンダードだった。高校時代に頭角を現わせなかった選手や当落線上の選手、下位指名が濃厚な選手などが「スポーツ推薦」や「野球部セレクション」といった方法で大学進学や企業に就職して、そこで数年かけて実力や実績を積み重ねて商品価値を高めて…というキャリアパスが明確に存在した。今までは、そうだった。

 

 ただ、くどいようだが事情や状況は大きく変わってしまった。そしてその変化、いや打撃はプロ球団側よりもアマ球界側により深刻な影響を与えてしまったのかもしれない。それ自体でお金を生み出せるプロと違い、アマチュアは興行ではないため活動資金を経営母体(ここでは学校法人や企業)に依存しなければいけない。その資金が削減されたらどうなるか?当然活動の規模は縮小せざるを得ないし、最悪の場合チーム自体が消滅するに至るわけだ。

 

 自分はただのド素人なので具体的な情報など何一つ持ち合わせてはいないが、大学野球でも東京六大学・東都大学・首都大学・関西学生などの「主流リーグ」や、地方でも全国大会で実績を残してきた一部の強豪大学を除いては、今年は「野球枠」で入学できる学生が相当少なくなってしまったのではないか?そんな気がしてならないのだ。

 

 「景気」がよりダイレクトに影響してくる社会人野球はなおのこと。日本国内の経済状況の悪化が続き、長いことこの流れで来ていたところに今年のコロナ禍である。今までぎりぎりのところを何とか踏みとどまってきた企業のチームも、これから数年で活動を諦めてしまうところは続出するのであろう。伝統あるアマチュア野球選手の受け皿であった社会人野球という仕組み自体が、ひょっとしたら消滅してしまうかもしれない…

 

 でも昔にはなくて今にはあるのが「独立リーグ」という枠組みなわけで、独立リーグから指名を受ける選手もずいぶん増えて来た。最近ではプロ野球を一度戦力外になった選手が再起を賭ける場としてここを選択した人も多い。現に今年でも元阪神の歳内宏明投手がヤクルトに復帰出来たのだ。今後独立リーグは「プロ志向のある選手」共通の受け皿として、規模も競技レベルもどんどん上がっていくだろう。そしてNPBとも互角に渡り合えるような球団が出て来てくれれば、王貞治会長の掲げる「プロ野球16球団構想」も現実味を帯びて来るのではないだろうか…

 

 いつの間にかドラフトから話題が逸脱してしまったが、アマチュア球界の衰退はプロ球界の衰退に直結する重大案件だから1野球ファンとしても思うところはある。今回はその流れが今年のドラフトからも感じ取れてしまった、という話さ。

 

 かしこ。